数研出版の数学副教材は本当に良いのか――4STEP・サクシードなどを考える

前回、初学者向けの数学の名著が少なすぎる、という話を書きました。大型書店に並ぶ数学の参考書を一通り確認したものの、本当に初学者に勧められる本はほとんど見つからなかった、という話です。

では、学校で使われている数学の問題集はどうなのでしょうか。

今回は、学校の数学副教材として有名な「数研出版」の問題集について話してみたいと思います。数研出版は、数学の教科書や問題集を数多く出版しており、多くの高校で採用されている出版社です。

しかし、私は数研出版の数学副教材をあまり評価していません。

もちろん、全部が悪いというわけではありません。それぞれに長所と短所がありますし、非常に高く評価している問題集もあります。

今回は代表的な4種類、「クリアー」「4プロセス」「4STEP」「サクシード」について、私なりの評価を書いていきます。

目次

クリアー――悪くない。でも量が多すぎる

まずはクリアーです。数研出版の学校用問題集の中では、比較的評価している教材です。

問題の難度が低めに設定されており、解説も比較的丁寧です。初学者が取り組むことを考えた教材として、方向性は悪くありません。

ただし、大きな問題が二つあります。

一つは、問題量が多すぎること。

クリアーが想定しているのは、おそらく偏差値50前後の生徒ではないかと思います。しかし、そのくらいの学力の生徒が、あれだけの問題量をきっちり仕上げられるのでしょうか。

私はかなり疑問です。

問題集は、一度全部解けばいいというものではありません。できなかった問題を復習し、もう一度解き、それでもできなければ再び復習する。そうして、できない問題を一つずつ潰していくことが重要です。

ところが、問題量が多すぎると、その復習が追いつきません。最初の一周を終えるだけで精一杯。できない問題が大量に残り、それを復習する前に次の単元へ進んでしまう。

これでは、何のために問題を解いているのか分かりません。

そして、もう一つの問題がレイアウトです。問題や解説がびっしり詰まっていて、見た目にもなかなか圧迫感があります。

勉強が得意な生徒なら気にならないかもしれません。しかし、勉強が苦手な生徒にとって、問題集を開いた瞬間に「うわ、面倒くさそう」と思ってしまうことは、決して小さな問題ではありません。

そもそも勉強が嫌いな生徒に、どうやって勉強を始めてもらうのか。そこまで考えるなら、レイアウトも教材の重要な要素です。

内容が良ければ、見た目なんてどうでもいい。

私はそうは思いません。

4プロセス――どうにも中途半端

次は4プロセスです。難度としては、クリアーと4STEPの中間に位置する問題集です。

この問題集については、正直なところ、かなり中途半端な印象を持っています。

まず、クリアーと同じく問題量が多すぎます。解説やレイアウトについても、あまり評価していません。そのうえ、4STEPほど難度の幅が広いわけでもありません。

どうせこれだけ大量の問題を解かせるのであれば、難度の幅が広い4STEPの方が、まだ採用する意味があるのではないかと思ってしまいます。

もちろん、4STEPも問題量が多すぎるので、誰にでも勧められるわけではありません。

ただ、基本的な問題を定着させたいのであれば、もっと問題数を絞った教材の方がいい。逆に、幅広い難度の問題に取り組ませたいのであれば、4STEPという選択肢があります。

そう考えると、4プロセスはどうにも中途半端なのです。

もちろん、クリアーでは物足りず、4STEPでは難しすぎるという生徒にとっては、選択肢になると思います。ただ、それならなおさら、ここまで大量の問題を収録する必要があるのでしょうか。

私には疑問が残ります。

4STEP――問題集としては悪くない

一方、4STEPはそれなりに評価しています。

比較的易しい問題から難しい問題まで、さまざまな問題が揃っています。難度の階段もある程度用意されており、問題集としての構成は悪くありません。

数学が得意な生徒にとっては、十分に使える教材だと思います。

ただし、ここでも問題になるのが、やはり問題量です。

多すぎる。

そして、クリアーや4プロセスと同様、レイアウトもあまり評価していません。

難しい問題までしっかり用意されているのはいいのですが、一般的な高校生がそのすべてに取り組み、復習し、身につけられるのでしょうか。

例えば、横浜翠嵐高校の中でも、さらに上位の生徒なら、それでも構わないと思います。問題を処理する速度が速く、大量の演習をこなすことができる生徒たちです。

しかし、偏差値55や60程度の生徒に同じ量を求めるのは、かなり厳しい。

問題集としての完成度と、生徒が実際に使いこなせるかどうかは、別の話です。

4STEPは悪い問題集ではありません。

ただし、誰にでも勧められる問題集ではないと思います。

サクシード――私の評価は0点

さて、最後はサクシードです。

私はこれまで、さまざまな数学の参考書や問題集を見てきました。どんな教材でも、それなりに長所と短所はあるものです。

しかし、サクシードについては、正直なところ、ほとんど評価できません。

私の中では、数ある数学の問題集の中でも唯一の0点、最低最悪の問題集です。

何が問題なのか。

問題の難易度が、唐突に跳ね上がることです。

数学は、段階を追って学んでいく科目です。易しい問題ができるようになったら、少し難しい問題へ。そこができたら、さらに難しい問題へ。

そうやって階段を上っていく必要があります。

ところが、サクシードでは、その階段が急に高くなる箇所が目立ちます。直前までの問題を解けるようになったとしても、次の問題を自力で解くための準備ができていない。

これでは、勉強が得意ではない生徒はどうすればいいのでしょうか。

考えても分からない。解説を読んでも難しい。結局、答えを写して終わり。

数学を嫌いにさせることを目的とした参考書としてならパーフェクトな参考書です。

サクシードには、4STEPと比較して問題数が少ないという長所があります。しかし、その少ない問題数で、かなり高い難度まで扱おうとしている。

だから、問題と問題の間の階段が高くなってしまうのではないでしょうか。

だったら、そもそも扱う難度の上限を下げればいい。

私はそう思います。

一冊で易しい問題から難しい問題まで、全部扱う必要なんてありません。基本問題を確実に身につけるための問題集なら、基本問題に絞ればいい。

その一冊が完成したら、次の問題集で難しい問題に挑戦すればいいのです。

わざわざ階段を飛ばして、生徒を苦しめる必要がどこにあるのでしょうか。

もちろん、サクシードでも問題なく勉強できる生徒はいると思います。しかし、それは自力で不足を補える生徒です。

そうした生徒が使えるからといって、一般的な生徒にとって良い問題集だとは言えません。

では、数研出版に良い問題集はないのか

ここまで散々批判してきましたが、私は数研出版の問題集がすべて悪いと思っているわけではありません。

むしろ、非常に高く評価している問題集もあります。

それが、数学と物理の『重要問題集』です。

この問題集は本当に素晴らしい。

問題の選定が絶妙で、良質な入試問題が揃っています。どの問題を解かせるべきかという選択が、非常にうまいと思います。

以前、偏差値40から東大を目指すための13冊の参考書ルートを紹介しましたが、数学の重要問題集はその中に入れていません。

理由は、解説をもう少し親切に書いてほしいからです。

ただ、それを差し引いても非常に優秀な問題集だと思います。ルートに組み込んでもいいと考えるくらいには評価していますし、実際に能力の高い生徒には勧めています。

つまり、数研出版は良い問題を選べない出版社ではありません。

それなのに、なぜ学校の副教材になると、これほど不満が出てくるのでしょうか。

私は、問題を選ぶことと、生徒が学習しやすいように問題を配置することは別だからだと思っています。

例えば、物理の『リードα』という問題集があります。これも学校で使われる副教材なのですが、以前、私も実際に問題を確認しました。

B問題を解いてみると、なかなか良い問題が揃っています。

「さすが数研出版。難しい問題の選び方は上手だな」

そう思って、次の問題を見ました。

「……いや、待てよ。これ、早慶の入試問題レベルじゃないか?」

いきなり難度が跳ね上がったのです。

問題自体は良い問題だと思います。しかし、この難度の問題を、通常のB問題の中に置く必要があるのでしょうか。せめて小問を細かくして誘導を丁寧にするとかしてほしいです。

そこまで難しい問題を扱いたいなら、もっと上の段階の演習として分けて扱えばいいのではないでしょうか。

難しい問題を載せること自体が悪いのではありません。

問題は、それを解くための準備ができているかどうかです。

重要問題集のような入試演習用の教材なら、難しい問題を選んで載せることには十分な意味があります。

しかし、学校の教科書と一緒に使う問題集で、同じような問題の選び方をしていいのでしょうか。

私はここに、数研出版の教材設計の大きな問題があると思っています。

学校の問題集に求められるもの

学校の副教材は、基本的には教科書の学習内容を定着させるためのものです。

もちろん、学校によって学力も目標も違います。難関大学を目指す生徒が多い学校なら、高い難度の問題を扱う必要もあるでしょう。

しかし、どの学校でも同じことができるわけではありません。

問題が難しすぎて進めない。問題が多すぎて復習できない。解説が読みにくく、そもそも勉強する気になれない。

そうなってしまったら、どれほど良い問題が収録されていても、生徒にとって良い教材とは言えません。

私は、問題集に必要なのは、できなかった問題を一つずつ潰し、最後まで仕上げられることだと思っています。

そのためには、問題の難度だけでなく、問題数、問題の順番、解説、レイアウトまで考えなければなりません。

数研出版には、重要問題集のような素晴らしい教材もあります。

だからこそ、私は学校の副教材にも、もっと改善の余地があると思っています。

難しい問題を選べることと、勉強ができない生徒をできるようにすることは、別の能力なのです。

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この記事を書いた人

開成中学・高校を経て東京大学へ進学。現在は高校教員として数学・物理を中心に教え、進路指導も担当。

指導の中心は偏差値50前後の生徒ですが、これまで偏差値30程度から70程度まで、幅広い学力層の生徒を指導してきました。通常の授業に加え、希望者向けの応用授業も担当しています。

大切にしているのは、生徒個人に合った勉強法や教材を考えることです。

※このブログは所属先とは関係のない個人ブログです。

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