大学受験で逆転できない理由――初学者向けの名著が少なすぎる

以前、偏差値40から東大を目指すための数学の参考書ルートを作った、という話を書きました。

結果として13種類の参考書を紹介することになったのですが、実はそのルートを決めるにあたって、超大型書店に行ってきました。

目的は、現在販売されている数学の参考書を一通り確認することです。

書店の参考書コーナーに並んでいる本を片っ端から手に取り、数分間立ち読みして、次の本へ。また数分読んで、次の本へ。

そんなことを延々と繰り返し、売場にあった数学の参考書を一通り確認しました。

いや、立ち読みしすぎだろ、という話ではあるのですが。

で、改めて思いました。

初学者向けの良い参考書って、本当に少ないんですよね。

目次

初学者に必要なのは、難しいことではない

私が初学者向けの参考書に求めるものは、大きく3つです。

  1. 今の高校生が取り組みやすい、見やすいレイアウトであること
  2. 公式の暗記に偏らず、理解に必要な理屈が分かりやすく説明されていること
  3. 適度な問題演習があり、理解した内容を定着させられること

別に難しいことを要求しているつもりはありません。

ただし、2つ目については少し説明が必要です。

私は、理屈が詳しければ詳しいほど良い参考書になるとは思っていません。

例えば、公式をひたすら暗記させるだけの参考書。

これは良くないと思っています。なぜその公式が成り立つのか、どういう場面で使うのかが分からなければ、結局は丸暗記になってしまうからです。

しかし、逆に理屈を延々と詳しく説明すれば良いのかというと、それも違います。

初学者に難しい理論を大量に読ませたところで、理解できるとは限りません。

むしろ、説明が詳しすぎるせいで、何が重要なのか分からなくなることもあります。

私が求めているのは、その中間です。

初学者でも理解できるように、必要な理屈はきちんと説明する。でも、詳しすぎない。

この絶妙なバランスが大切だと思っています。

そして、理解したことを簡単な問題で少し使ってみる。そうすれば、知識も定着しやすくなります。

もっとも、3つ目の問題演習については必須ではありません。

説明が圧倒的に分かりやすく、レイアウトも素晴らしいのであれば、問題演習は別の教材で補えばいい。私は参考書一冊ですべてを完結させる必要はないと思っています。

ところが、これがなかなか見つかりません。

理屈の説明が足りない。逆に詳しすぎる。説明は良いのに、レイアウトが読みにくい。初学者向けを名乗っているのに、初学者には難しすぎる。

そんな本が非常に多い。

結局、一通り探して、ようやく、

「まあ、これなら許容できるかな」

という本を一冊見つけました。

前回紹介した13冊のうちの一冊です。

念のため言っておきますが、これは「素晴らしい本を見つけた!」ではありません。

あくまで許容できるです。

それくらい、私が求めている初学者向けの参考書が見つからないんです。

ところが、絶版本にはあるんですよ

ここが本当に悔しいところです。

現在販売されている参考書にはなかなか見つからないのに、昔の参考書にはあるんですよ。

私が、

「これこそ初学者に読ませたい」

と思う本が。

中には、中古市場で2万円ほどするものまであります。

しかも、単に高値で出品されているだけではありません。実際にその価格で売買が成立しています。

おそらく、一部の塾講師などが紹介して、それを知った保護者が購入しているのではないかと思います。

まさに知る人ぞ知る名著です。

その本については、悔しいのですが、

私が授業するより100倍分かりやすいと思っています。

もちろん、応用的な内容や、実際に問題を解けるようにするための指導は別途必要です。

でも、基本事項の説明については本当に素晴らしい。

難しい理屈を必要以上に説明するわけではない。それでいて、公式をただ暗記させるわけでもない。

初学者が理解するために必要なことが、分かりやすく整理されています。

正直、

「もうこれを読んで自分で勉強してくれ」

としか言いようがありません。

実際、以前、東大を目指して先取り学習をしたがっていた高校1年生に、その本を貸したことがあります。

その生徒は、その本と学校の副教材だけで、先取りした範囲をほぼ完璧に仕上げていました。

あれほど分かりやすい本なら、それも納得です。

ちなみに、その本は生徒になくされました。

絶版本なのに。

絶許。

……まあ、その話は置いておきましょう。

ほかにも素晴らしい絶版本はいくつかあります。全部が2万円もするわけではありませんが、そもそも新品で買えないこと自体が残念です。

なぜ、こんな良い本が絶版になるのか

本当に不思議なんですよね。

こんなに素晴らしい本なのに、なぜ売れなかったのか。なぜ絶版になってしまったのか。

もちろん、出版社にも事情があるのでしょう。売上、改訂費用、営業、学校への採用状況など、いろいろな要因があると思います。

ただ、私が一つ思うのは、

受験生自身が、難しい参考書を求めすぎているのではないか。

ということです。

以前からこのブログで何度も書いていますが、受験生はどうしても難しい問題集をやりたがります。

東大を目指すなら東大向けの難問集。MARCHを目指すならMARCHレベルの問題集。

簡単な参考書を勧められると、

「こんなのやっていて大丈夫なの?」

と不安になる。

でも、今の自分が偏差値40なら、まず必要なのは偏差値40から抜け出すための勉強です。

いきなり難しい問題集を使っても、まともに理解できないのであれば意味がありません。

ところが、簡単な参考書は敬遠され、難しそうな参考書が好まれる。

そういう市場なら、本当に初学者に必要な教材が売れずに消えていくこともあるのでしょう。

「悪貨は良貨を駆逐する」

という言葉があります。

もちろん、本来は貨幣についての話なのですが、参考書市場を見ていると、どうしてもこの言葉を思い出します。

どれだけ良い教材を作っても、それが正当に評価されるとは限らない。

むしろ、世間の需要と噛み合わなければ消えてしまう。

そして、残った教材が必ずしも生徒にとって最良のものとは限らない。

そうして本当に必要な教材が手に入りにくくなるのであれば、かなり悲しいことです。

だから、大学受験の逆転劇は難しい

そして今回、書店で参考書を探しながら改めて感じたことがあります。

そりゃ、偏差値40から東大なんて、なかなか起こらないよな。

ということです。

私は、偏差値40から東大を目指すことが理論上不可能だとは思っていません。

実際、前回はそのための参考書ルートを13冊に分けて考えました。

ただ、それを一から作るのは本当に大変です。

私は今まで相当な数の参考書を見てきましたし、生徒の失敗も成功も見てきました。

それでも、今回改めて超大型書店に行き、現行の参考書を一通り確認して、ようやくルートを組んでいます。

では、普通の高校生がこれを自分でできるのか。

かなり難しいと思います。

ネットで調べれば、有名な参考書が大量に出てくる。学校から指定された問題集もある。塾からも勧められる。

でも、そのどれが今の自分にとって適切なのか、判断できない。

だから、偏差値40の生徒が難しすぎる参考書を使ってしまう。

理解できない。

時間だけが過ぎる。

それでも、本人は一生懸命勉強しています。

結果として、同じような偏差値のまま高校生活が終わってしまう。

東大どころか、MARCHを目指す場合でも同じ問題は起こります。

本人が努力していないから伸びないのではなく、努力する方向を間違えているから伸びない。

そういう生徒が、実際にはかなりいると思っています。

「自分に合った参考書」は選べない

私はこれまで、何度も「自分に合った参考書を使うことが大切だ」と書いてきました。

今でもその考えは変わりません。

でも今回、改めて思いました。

そもそも、自分に合った参考書をどうやって選べばいいんでしょうか。

今の自分には何が足りないのか。どのレベルの教材なら無理なく進められるのか。その教材を終えたら、次は何をやればいいのか。

これを正しく判断するのは、結構難しいことです。

私は参考書を選ぶとき、生徒がどこまで理解しているか、その先にどんな問題があるかまで考えて選びます。

でも、普通の高校生にはそんな経験はありません。

これから勉強する内容なんて、まだ知らないんですから。

だから、ネット上で人気の参考書を調べたり、合格体験記を読んだりして選ぶ。

その結果、自分には難しすぎるものを使ってしまう。

そして、成績が伸びない。

ここで問題なのは、本人には何が間違っているのか分からないことです。

勉強を頑張っているのに成績が上がらない。だからもっと頑張る。でも、教材も勉強の進め方も変わらない。

結局、また伸びない。

これでは逆転どころではありません。

努力する方向を自分で判断することが難しい生徒に、最初から正しい方向を選ぶことまで要求している。

これが、大学受験における大きな問題の一つだと思っています。

必要なのは、最初の一段

前回の記事で、私は13冊の参考書を使って階段を細かくする、という話を書きました。

別に難しい問題集をたくさん使わせたいわけではありません。

偏差値40の生徒なら、まず偏差値50を目指せる教材。

そこまでできたら、次は偏差値60を目指せる教材。

さらにその先へ進むための教材。

そうやって一段ずつ積み上げていけばいい。

でも、その最初の一段を作ることが、こんなにも難しい。

本来、一番丁寧に作られていてほしい初学者向けの参考書が、なかなか見つからない。しかも、数少ない良書が絶版になってしまっている。

だから私は、大学受験での逆転劇が難しい理由の一つは、ここにあると思っています。

もちろん、参考書だけですべてが決まるわけではありません。本人の能力も、学習時間も、周囲の支援も必要です。

ただ、せっかく本人が頑張ろうとしているのに、適切な教材に出会えないまま何年も足踏みするのは、あまりにもったいない。

もっと初学者が、自力で一段ずつ登れるような参考書が増えてほしい。

それだけのことなんですけどね。

それがなかなか実現しない。

なんとかならないかなぁ……。

学校で使われている教材も良くない

今回は市販の参考書について書きましたが、学校で採用される数学の副教材についても、私は以前からかなり疑問を持っています。

特に数研出版の数学教材については、言いたいことが山ほどあります。

学校の先生にとって使いやすい教材と、生徒が勉強しやすい教材は同じなのか。

なぜ、数研出版の教材はこれほど多くの学校で採用されているのか。

この話も長くなりそうなので、次回はそのあたりについて書いてみようと思います。

ちなみに、こんなことを散々書いていますが、実は今度、ある教科書会社と一緒に教材を執筆することになっています。

せっかく作るなら、自分が良いと思えるものを作りたいですね。

でも、売れないんだろうなぁ……。

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この記事を書いた人

開成中学・高校を経て東京大学へ進学。現在は高校教員として数学・物理を中心に教え、進路指導も担当。

指導の中心は偏差値50前後の生徒ですが、これまで偏差値30程度から70程度まで、幅広い学力層の生徒を指導してきました。通常の授業に加え、希望者向けの応用授業も担当しています。

大切にしているのは、生徒個人に合った勉強法や教材を考えることです。

※このブログは所属先とは関係のない個人ブログです。

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