鉄緑会はなぜ東大合格者が多いのか――最上位層に合う勉強法の仕組み

前回の記事では、鉄緑会や青チャートなど、世間では定番とされている教材や塾を、普通の高校生への第一選択としてはあまり勧めない、という話をしました。

そして最後に、次は「良い教材とは何か」について書くと予告しました。

ただ、その前に一つだけ、前回かなり厳しく扱った鉄緑会について補足しておきたいと思います。鉄緑会は、実際に非常に多くの東大合格者を出しています。では、あの教材・あの勉強法で、なぜそれほど結果が出るのか。

教材そのものが圧倒的に優れているからではなく、大量演習という仕組みが最上位層の性質に非常によく噛み合っているから。

私は、これが鉄緑会の強さの中心だと考えています。

目次

まず、「最上位層」の意味がかなり違う

ここで言う「最上位層」は、単に数学が得意な生徒ではありません。模試で偏差値70を取る、という程度でもありません。

開成・筑駒・灘といった学校の、その中でもさらに上位にいるような生徒。そのくらいの層を想定しています。

このレベルになると、理解が速い。処理も速い。難しい問題にもかなり対応できます。教材の説明が多少不足していても自分で補えますし、知らないことがあれば勝手に調べます。極端な話、教材として20点、30点くらいのものを渡しても、それなりに何とかしてしまいます。

ただし、この層には別の問題があります。

頭が良すぎるので、丁寧に勉強させるのがものすごく難しい。

最上位層は、勝手に省略する

例えば基本問題を一問解かせる。普通に解ける。そこで「この解法をきちんと覚えてください」と言っても、「別に自分のやり方でも解けるからいいでしょう」となる。

復習をさせようとしても、「一度できたから大丈夫」。簡単な問題なら、「これはもう分かっているから飛ばそう」。そして実際に次の問題も解けてしまうので、本人としては何も困っていません。

でも、ここには大きな落とし穴があります。

「その問題が解けたこと」と、「そこで身につけるべき能力が定着したこと」は別です。

自分の得意な方法で押し切っただけかもしれない。本来覚えてほしい解法を使っていないかもしれない。それでも正解はできます。

だから最上位層は、見た目以上に基礎がスカスカなことがあります。それでも能力が高いので、しばらくはその穴をごまかせてしまう。

100点の学習法を渡しても、70点にしてしまう

仮に、ものすごく良い教材があったとします。説明は丁寧。難易度も少しずつ上がる。理解した直後に練習問題があり、復習もしやすい。全部やれば基礎からきれいに定着する。いわば100点の教材です。

ところが、最上位層にこれを渡しても、100点分やりません。

「ここは分かる」「この問題はいらない」「この解法じゃなくても解ける」「復習はしなくても大丈夫」と、勝手に省略していきます。

100点の学習方法を用意しても、本人が勝手に70点くらいの学習にしてしまう。

これが最上位層の難しいところです。

そこで、鉄緑会の大量演習が妙に噛み合う

鉄緑会の大きな特徴の一つが、圧倒的な演習量です。そして私は、ここが鉄緑会の一番強いところだと思っています。

最上位層は、「同じ問題をもう一度やりなさい」と言っても、やりたがりません。一度解けた問題は退屈だからです。

でも、新しい問題なら解きます。

そこで大量に別の問題を与える。すると本人は復習しているつもりがなくても、以前使った考え方を、別の問題で、形を変えて、何度も使うことになります。

一度目は少し雑に理解した。でも別の問題でも使う。また別の問題でも出てくる。さらにもう一度使う。そうしているうちに、だんだん定着していく。

復習をしたがらない最上位層に、大量演習の中で実質的な復習をさせている。

私は、ここが鉄緑会の一番強いところだと思っています。

高1・高2から難しい問題をやらせることにも意味がある

鉄緑会では、かなり早い段階から難しい問題まで扱います。高1・高2でも、一般的な高校生からすればかなり難しい問題まで進みます。

普通の高校生に同じことをやらせたら、「高1にそんな問題をやらせて何になるのか」という話になります。基礎も定着していない生徒に難問を与えても、あまり意味はありません。

でも最上位層なら話が変わります。彼らは基礎・標準レベルをものすごい速度で処理できる。ならば、早い段階から一段上の問題まで大量に経験させる価値があります。

大量演習+高い難度まで早く進む。

この二つは、最上位層に限ればかなり合理的です。

ただし、教材そのものは別の話

ここは切り分けて考えた方がいいと思っています。

私は元鉄緑会生です。当然、学生時代にも鉄緑会の教材を使っていました。ただ、当時の私は単なる生徒です。今のように、「なぜこの順番で教えるのか」「どこまで理解できれば次へ進めるのか」「どこで生徒がつまずくのか」という視点で教材を見ていたわけではありません。

教師になり、そうしたことまで考えて数学を教えるようになった状態で改めて見ると、鉄緑会の教材はかなり使いにくいと感じます。

問題は、単に「解説が薄い」ことではありません。それくらいなら最上位層は自分で補えます。

私が一番気になるのは、新しい内容を一つずつ整理して定着させる流れが見えにくいことです。

例えば数列なら、「数列とは何か→等差数列→一般項→和」のように、一つ理解して、使って、定着させてから次へ進む方が学びやすい。

ところが鉄緑会の教材では、新しい概念、公式、公式の証明、別の公式、性質、解法、注意事項などがかなり高密度で並びます。内容自体はどれも大切です。ただ、全部が同じ強さで並ぶので、「今、まず何を身につければいいのか」が見えにくい。

私はここを、教材としてのかなり大きな欠点だと思っています。

それでも鉄緑会が成立する理由

かなり乱暴に点数をつけるなら、私は鉄緑会の高2までの教材を50点くらいだと思っています。

ただし、「鉄緑会の教材はひどい」という意味ではありません。これまで色々な塾教材を見てきましたが、20点、30点くらいだと思うものもかなりあります。そういう意味では、鉄緑会の50点は相対的にはかなり良い部類です。

それでも50点です。

ところが鉄緑会では、そこに大量演習が乗ります。最上位層なら不足を自分で補える。さらに大量の問題の中で何度も同じ考え方を使わされる。

教材単体では50点でも、その生徒にとっては80点、90点の学習になる。

私は、これが鉄緑会が結果を出す最大の理由だと思っています。

ただし、一段下では同じ大量演習が「消化不良」になる

ここが一番重要です。

鉄緑会のやり方は最上位層には成立します。でも、開成や筑駒などにいて十分優秀でも、今話している最上位層ほどの処理速度や補完能力がない生徒も当然います。

その生徒に同じことをやらせると、状況が全く変わります。教材を整理しきれない。まだ前の内容が完全には定着していない。でも大量の問題が来る。終わらせるだけで精一杯なのに、さらに次の単元へ進む。

最上位層には「大量演習=定着」になる。
その一段下には「大量演習=消化不良」になる。

同じやり方なのに、結果がまるで違います。

だから私は、同じ鉄緑会でも、最上位層には80点、90点になり得る一方、その一段下には0点にもなり得ると思っています。

鉄緑会は、結果として最上位層に恐ろしく噛み合った

では、この仕組みは最上位層の性質を最初からすべて計算して設計されたものなのか。

私はそうは考えていません。

鉄緑会で正社員として働いている昔からの知人と本音で話したことがありますが、そこで感じたのは、「鉄緑会に入り、このやり方についてくれば東大に受かる」という認識の強さでした。

また、教材や問題選定については、先生方が合宿までして検討しているとも聞いています。

それでも「この方法は最上位層だから成立する」という認識が十分にないのであれば、私は、

最上位層向けに狙って完成させたというより、結果として鉄緑会の仕組みが最上位層と恐ろしく噛み合った。

と考える方が自然だと思っています。

鉄緑会は、「教材そのものが圧倒的に優れている塾」というより、最上位層に大量演習をさせるという仕組みが、その層の性質と非常によく噛み合った塾。私はそう見ています。

そして、ここが重要です。

鉄緑会で結果が出ているからといって、「大量に問題を解けばいい」「早い段階から難問をやればいい」と一般化してはいけません。

それは、最上位層だから成立している勉強法です。

では、普通の生徒がきちんと伸びる教材には、何が必要なのか。

次の記事では、今度こそそこを考えていきます。

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この記事を書いた人

開成中学・高校を経て東京大学へ進学。現在は高校教員として数学・物理を中心に教え、進路指導も担当。

指導の中心は偏差値50前後の生徒ですが、これまで偏差値30程度から70程度まで、幅広い学力層の生徒を指導してきました。通常の授業に加え、希望者向けの応用授業も担当しています。

大切にしているのは、生徒個人に合った勉強法や教材を考えることです。

※このブログは所属先とは関係のない個人ブログです。

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