以前、青チャートや黄チャート、Focus Goldのような網羅系問題集は、普通の生徒が最初から一人で使うにはかなり難しい、という話を書きました。
その最後に、
まずは、理論を理解することです。
と書きました。ただし、ここで一つ大きな勘違いがあります。
数学は、暗記しなくていい科目ではありません。むしろ、考えるためには暗記が必要です。
「時間をかければ解けます」ではダメ
数学が苦手な生徒から、「時間をかければ解けます」と言われることがあります。
でも、基本問題については、それではダメです。少なくとも学校教材や参考書のA問題くらいの内容なら、毎回じっくり考えて解くものではありません。学校の数学教員が解くくらいの速度で、ほとんど瞬時に処理できるところまで持っていく必要があります。
なぜなら、基本事項を思い出すことに頭を使っていたら、その先を考える余裕がなくなるからです。
応用問題では、条件を整理する。複数の知識を組み合わせる。どこから手をつけるか考える。途中で方針を変える。そういう、本当に頭を使う部分があります。
そのたびに、
「この公式なんだっけ」
「この計算どうやるんだっけ」
と止まっていたら、それだけで頭の容量を使ってしまいます。
難しいことを考えるためには、簡単なことを考えなくてもできる状態にしておく必要があります。
だから基本事項は、実質的には暗記しているくらいでいい。
思考力は、暗記の反対ではない
例えば、掛け算の考え方を丁寧に教えたとします。「掛け算とは何か」は理解した。
では、それだけで計算できるのか。
できません。
5×6=30がすぐに出てこなければ、そのたびにそこから考えなければならない。九九を覚えているから、その先の複雑な計算に頭を使えるわけです。
数学も同じです。公式、基本的な解法、よく使う式変形。こういうものは、ある程度まで反射的に出てくる必要があります。
「数学は暗記ではなく思考力だ」と言われることがありますが、私はこの言い方は少し違うと思っています。
思考力と暗記は反対ではありません。思考力は、十分な知識や基本技能を暗記した上に成り立つものです。
ただし、もちろん暗記だけでもダメです。
例えば平方完成なら、
平方完成する
→ 頂点と軸が分かる
→ グラフの形が見える
→ 最大値・最小値を考えられる
というつながりまで理解しておく必要があります。
ただ形だけを覚えて、「二次関数が出たから平方完成します」では困ります。何のために平方完成するのか。その結果、何が分かるのか。
そこまで理解したうえで、平方完成そのものはほとんど考えずにできる。
そこまで持っていきたい。
理解しただけでは身につかない
そして、理解しただけでも足りません。
授業を聞いて、「なるほど、分かった」と思った。参考書を読んで、「そういうことか」と思った。
でも、それだけでは次の日にはかなり抜けています。理解した内容は、実際に使わなければ定着しません。
そこで必要なのが、問題演習です。
問題を解いて、
「この公式をここで使うのか」
「平方完成したら、確かに頂点が見える」
「この条件なら端点も確認しないといけない」
と、理解した内容を何度も使う。そうすることで、知識が少しずつ定着していきます。
つまり数学では、問題演習は応用力をつけるためだけにあるのではありません。
理解した基本事項を覚え、瞬時に使えるようにするためにも必要です。
では、最初に何を使うのか
ここからは一つの例です。
実際に私が生徒を教える場合は、その生徒の学力や学校で使っている副教材を見て決めます。学校ですでに使いやすい問題集が配られているのであれば、わざわざ別のものを買わせる必要もありません。
逆に、本当に数学がかなり苦手な生徒には、もう少し別の教材を使うこともあります。
なので、これはあくまで一般論です。
この記事は無料で公開しているものなので、万人に比較的勧めやすい一例を挙げるなら、
NEW ACTION FRONTIERの☆2~3程度 → 入門問題精講
あたりが無難だと思っています。
まずNEW ACTION FRONTIERで、基本事項を理解しながら問題を解く。
私がFRONTIERを挙げる理由は、理論を読んで終わりではなく、そのまま問題演習までできるからです。理解した直後に問題を解いて、自分で使ってみる。そのアウトプットを通して、基本事項を定着させる。
FRONTIERは、「理解したことを使えるようにする」ための教材として使いやすい。
私はそう思っています。
そのあとに入門問題精講を読ませたい
そして、NEW ACTION FRONTIERできっちり基礎を固めたとしても、私はそのあとに入門問題精講を読ませたいです。
ここでの役割は少し違います。
FRONTIERは、理解した内容を問題演習で定着させるため。
入門問題精講は、そのあとに理屈や考え方をもう一度整理して、穴がないか確認するため。
私はそんな使い分けをしています。
入門問題精講は、「入門」という名前なので、数学が苦手な人向けの簡単な問題集だと思われがちです。
でも、私がこの本を評価している理由は、問題が簡単だからではありません。
理屈の説明がかなり丁寧で、また必要な考え方がかなり載っているからです
なぜそう考えるのか。何を見るべきなのか。どういう発想で問題に入るのか。そういう部分を、もう一度確認できます。
だから私は、数学が苦手な生徒だけではなく、数学が得意な生徒にも読ませています。開成生だろうと、鉄緑会に行っていようと、誰だろうとです。
というより、かなり強めに、
一回は読め。
と言っています。
「もうできるから必要ない」と思うなら、それでも構いません。本当に全部できるのであれば、ものすごい速度で読めるはずです。一日で終わるなら、一日で終わらせればいい。
それでも、
「ここは完全に分かっている」
「ここも問題ない」
「あれ、ここだけ少し曖昧だった」
と確認できます。
私は、それだけでもかなり価値があると思っています。
「だいたいできる」と「基礎に穴がない」は違います。
難しい問題が解ける生徒でも、意外なところに小さな穴が残っていることがあります。それを一度、基礎から確認して埋める。
NEW ACTION FRONTIERなどで基本問題を十分にやったとしても、一度は読んでほしい本です。
基礎を覚えるから、応用を考えられる
数学ができる人は、毎回すべてを一から考えているわけではありません。
むしろ逆です。
基本的な計算、公式、典型的な処理は、ほとんど考えなくてもできる。その分だけ、その問題で本当に考えなければならない部分に頭を使えます。
理解する。問題を解く。何度も使って覚える。そして、考えなくても使えるところまで持っていく。
基本的なことは考えなくてもできる。だから、本当に考えるべきところを考えられる。
数学の思考力というのは、暗記を否定した先にあるものではありません。
十分な理解と、その理解を問題演習によって定着させた知識。その上に思考力が乗る。
私はそう考えています。

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